「フェーン現象」はドイツでの気象病研究の発展が関係していた
日本でも「生気象学」「気象病」という言葉を耳にするようになりました。
この分野のパイオニアはドイツです。本記事では、ドイツで発達した生気象学と「フェーン現象」の関連性について解説します。
【目次】
【生気象学のはじまりは1930年代】
雨が降る前など気象が変わるときに、気圧、気温、湿度などの変化が体に影響を及ぼし、持病が悪化したり頭痛などの痛みに襲われることが、近年、日本でも「気象病」として認知されるようになってきました。
このように、気象現象が人間やその他の生物に与える影響を研究する学問は「生気象学」とよばれ、1930年代からドイツで本格的に研究がはじまりました。
関節に疾患を持つ患者さんに、気圧や湿度を自由に設定できる特殊な実験室に入ってもらって研究を行ったところ、気圧と湿度の両方を変化させたときのみ、痛みが出るということがわかりました。これが生気象学の初めての実証実験となりました。
生まれてからまだ90年足らずの比較的新しい学問ですが、学問として「生気象学」が確立する前から、古くはアリストテレスの時代(紀元前384~322年頃)、日本では卑弥呼の時代(西暦247年頃)から、健康が天気の影響を受けていることは指摘されており、昔から多くの人になじみのある分野でした。
【気象病は気圧・気温が関係する】
生気象学の生まれたドイツや、アメリカなどでは、天気の変化が健康に与える影響に早くから着目し、天気予報とあわせて病気予報を発表するなどの取り組みが行われてきました。
日本では、1998年頃から気温や気圧低下が慢性痛モデル動物の痛みを悪化させることが実証実験で明らかになってきました。さらには2010年頃からの研究で、内耳に気圧のセンサーの役割があることがわかってきて、内耳からの信号で自律神経が乱れ、これがめまいや頭痛などのさまざま症状を引き起こすと考えられています。
これらの研究結果は「気象病」が認知されるきっかけとなりました。
気温・気圧が変化しやすい地形に住む人たちや、気温差・気圧差にさらされる機会の多い職業の人(客室乗務員や冷凍作業など)に気象病が出やすい傾向があるようですが、詳しくはまだ解明されていません。
【「フェーン現象」が研究発展の理由】
生気象学は、フェーン現象と症状との関連についての研究を進めたところから発展しました。
フェーン現象とは、山の斜面に当たった風の空気中に含まれる水分が、山を越える際に雲から雨となって降り、山を下る際には乾いた温かい空気となって吹き降ろされ、付近の気温が上がる気象現象を指します。
アルプス山脈を超える風がもたらす現象に由来しており、フェーンという言葉もドイツ語です。
フェーン現象が起こると、ふもと付近の住民は頭痛をはじめ、イライラしたり気分が沈みがちになったりして、犯罪や自殺、交通事故などが増加しました。アメリカのロッキー山脈で起こるフェーン現象でも、同様に犯罪や自殺との密接な関連を示す研究結果が出されています。
【日本でもフェーン現象は起こる】
日本でも、山が近い市街地などで過去にフェーン現象とみられる気象現象が起きており、たとえば、2016年12月に新潟県糸魚川市で起きた火災の規模拡大は、フェーン現象のためだという説もあります。
フェーン現象は、近年、日本でも多く起きており、ドイツやアメリカの例にあったような人体(気分)への悪影響に備え、フェーン現象が起きた際は、普段以上に車の運転や体調・気持ちの変化に注意したいところです。
監修:舟久保恵美 医学博士
天気と痛みの関係の謎を解くため名古屋大学大学院医学系研究科で研究し医学博士号取得。
専門は生気象学。健康相談・保健指導にあたりながら、気象痛のメカニズム、低気圧による痛みの悪化のメカニズム、内耳と気圧の関係について研究している。