NO.73 減塩は本当に正しいのでしょうか?

塩

スーパーに行くと、多くの食品に「減塩」という文字が並んでいます。
特に年齢を重ねると、減塩した方が良いと考え、「減塩」の商品を手に取られる方も多いようです。

今回は、減塩について考えてみましょう。

身体の約1/3を満たす「細胞外液」は海水に似ている

私たちの身体は60~70%が水分でできています。
その水分は身体のあらゆる場所に存在していますが、自由に流れているわけではなく、決められた箇所から侵入や侵出がなされています。
このバランスを取って細胞は成り立っています。好き勝手に流れれば、細胞は破壊されてしまうでしょう。

約60兆個の細胞でできている私たちの身体は、一つひとつが生命維持のために活動しています。
私たちの身体の水分の約2/3が細胞の中にあり、「細胞内液」とよばれています。
残りの約1/3が血液や細胞間を満たしている体液などの「細胞外液」とよばれています。

この細胞外液は海水にとてもよく似ており、約0.9%の塩分が含まれています。この塩分があって、細胞内外のバランスが取られて身体の働きが維持されています。
また、体内の毒素を排泄するためにも塩分は欠かせません。生まれる前にお母さんのお腹で過ごしている間、胎児を包んでいる羊水も、海水のミネラル成分に非常に似ています。

天然塩と精製された塩には天と地ほどの差がある

昔の塩の生成方法は、海水を汲み出して太陽の力で水分を蒸発させるという方法でしたが、土地が狭くて湿度が高い日本では、やがて海水を煮詰めて塩を取り出すようになっていきました。
産業化が進み、塩はどんどん精製されて、海水の主な成分のナトリウムと塩素だけに絞られてしまいました。
精製された塩は、真っ白でさらさらしていてきれいですし安価だったので、同じだと思った人々は精製された塩を選ぶようになりました。

天然塩には自然界から溶け込んだ微量なミネラルがたくさん含まれています。生まれる前の環境も身体の細胞の周りの環境も、海水と同じような微量ミネラルが豊富な塩水なのです。
一方、精製された塩はナトリウムと塩素だけです。
この違いは身体にとっては、天と地ほどの差があります。同じ「塩」とひとくくりにされていますが、まったくの別物だといえます。

細胞間の情報伝達には塩分が必要

細胞が正常に機能する為には、細胞内外のカリウムイオン、ナトリウムイオン、マグネシウムイオンカルシウムイオンなどのイオンの出入りが細胞の内外で行われる必要があります。
これらのイオンが、神経の伝達や筋肉の収縮、栄養分の吸収などの働きに関与しています。

細胞外液にはナトリウムが多く、細胞内液にはカリウムが多く含まれています。
塩分の過剰摂取が続くと、塩分濃度を薄めるために、汗や尿の排泄も抑えられ、細胞外液に水分を取り込もうとして血液量も増えます。
そのため血圧が上がり、これが長く続くと高血圧症になります。これが「減塩」が世の中でうたわれているゆえんです。

しかし、細胞間の情報伝達には塩分は欠かせません。これがなければ、健康な身体を維持できないのです。
減塩を気にするあまり、必要な塩分を摂取できていなければ、健康どころか体調を崩す原因にもなります。
この「必要な塩分」というのは、微量ミネラルを多く含む天然塩です。
他のミネラルを含まない精製塩は、細胞のバランスを崩してしまうだけではなく、細胞の正常な働きを奪ってしまうほどの攻撃性を持っています。

天然塩から本当に必要な塩分の摂取を

熱中症の予防には塩分が必要だといわれます。
夏のテニスで大量の汗をかく私は、必ず岩塩を摂取します。汗とともに大量に流れた塩分を補充しなければ、足がつったり、ひどくなれば痙攣につながってしまいます。塩が不足することは身体にとっては命取りになる場合もあるのです。
必要な塩分が不足すると、疲れやすくなり、血液循環が悪くなり、老化も早まると考えられます。

この時に身体が必要としているのは、ナトリウムと塩素だけの精製された塩ではなく、細胞外の環境と同じ微量ミネラルが含まれた天然塩です。
「天然塩も取り過ぎたら良くないのでは?」と考える方がいらっしゃるかと思いますが、水分をしっかり摂取できていれば大丈夫です。
ただし、水分といっても清涼飲料水ではなく「水」でなければいけません。できれば、良質なお水がベストですね。

ファーストフードやレトルト食品、調味料、お菓子、パンなど、食品にはたくさんの精製塩が使用されています。そのため、現代人は身体に本当に必要な塩分が不足している可能性があります。
自宅で使用する塩は、天然塩をぜひ使用して下さい。
そして、ミネラル分が効果的に働くためにも、過剰にならないためにも水分をしっかり摂取することが大切です。

山田有希子(薬剤師・サプリメントアドバイザー・ナキュア代表)
薬科大学卒業後、薬剤師や美容アドバイザーなどを経て2001年
サプリメントショップを開業。個人顧客からメーカー企業まで幅広く事業を展開。
日本ニュートリション協会会員。